富山鹿島町教会

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「ナルニア国物語」について 第14回

3.「朝びらき丸東の海へ」(1)

 牧師 藤掛順一


 第三巻「朝びらき丸東の海へ」に入ります。ナルニアにおける時代は、前巻で即位したカスピアン王の治世の三年目です。人間の世界においては、前巻の冒険の一年後の夏休みのことです。この夏休み、エドマンドとルーシィはおじさんの家に預けられていました。その事情が語られる中に、あの「ライオンと魔女」の冒険が始まった田舎の屋敷の老先生が「カーク先生」という名であることが出てきます。この人が何者であるかは、ずっと後になってわかります。
 さて、このおじさんの家にユースチスという少年がいました。つまりエドマンドたちのいとこです。彼は一言で言うと「いやな奴」でした。憶病なくせに、弱い者には尊大になり、いじわるになる、というタイプです。ですからエドマンドたちはこの家で夏休みを過ごすことが嫌でした。エドマンドとルーシィは、ルーシィにあてがわれた部屋でナルニアの話をしていました。この部屋には一枚の絵がかけてありました。それは竜の首のへさきを持った一本マストの帆船が航海している絵でしたが、その船はナルニアの船にそっくりだったのです。ユースチスは彼らからナルニアの話を聞き出しており、勿論それをただの作り話のごっこ遊びとして彼らを何かとからかっていました。その日もエドマンドとルーシィがこの絵の前で話をしているところにユースチスが入って来てからかおうとしたところが、魔法が働いて、彼らは絵の中に吸い込まれてしまいました。あるいは、絵が現実となって彼らを飲み込んだと言った方がよいかもしれません。気がつくと彼らは海の波間にただよっており、その船の人が海に飛び込んで彼らを助け上げてくれました。何とその人はあのカスピアン王だったのです。
 カスピアンが即位して三年、ナルニアは平和に治められていました。今カスピアンは、昔父カスピアン九世の王位を奪ったミラースによって、東の海の探検を命じられて行方不明になっている七人の貴族たちを捜しに航海に出ているのでした。この七人の貴族は、カスピアン九世の友であり、ミラースは冒険を口実に彼らを追い払ってしまったのでした。カスピアンは彼らを捜し出し、もし死んでいるならをのわけを調べ、あだを打ってあげようとしているのです。
 この船「朝びらき丸」に乗船している者の中で、もう一人(?)彼らが知っている者がいました。それはネズミのリーピチープでした。彼はこの航海にさらに大きな夢を託していたのです。「どうして、この世の東のはてに、いけないわけがありましょう?そこへいったら、何が見つかるでしょう?わたしは、アスランの本国が見つかると思います。あの偉大なライオンがわたしたちのところにくるのは、いつも海のかなた、東からくるではありませんか?」そしてリーピチープは、昔木のおとめドリアードから聞いた歌を披露しました。「空と海おちあうところ、波かぐわしくなるところ、夢うたがうなリーピチープ、もとめるものを見つけるは、ひんがしのいやはての国」。リーピチープにとってこの航海は、単なる冒険の旅ではなく、アスランの国への巡礼の旅、「天路歴程」なのです。
 ところで、ユースチスは突然魔法で海の中に放り出され、船に上がると今度は船酔いでさんざんの思いをしていました。彼がつけ始めた日記は彼の性格をよく表しています。「夢でないとすれば、このひどい船に、二十四時間いることになる。そのかん、おそろしい嵐があれくるっていた。山のような大波が、たえずかぶさり、この船がいく度も沈みそうになるのを見る。ほかの者たちはみな、知らんふり。強がりからか。ハラルド(父親のことです)がいうように、いっぱんの人がよくおちいる真実に目をふさぐ、あのおく病さからか。こんなばかばかしい小さな船なんかに乗って、海に乗りだすのは、きちがいざただ。ボートよりも大して大きくない。そのうえ、船内の古くさいこと。ちゃんとしたサロンはなし、無線も、浴室も、デッキチェアーもない。きのうの夕がたは、船内いたるところ、ひっぱりまわされ、カスピアンがじぶんのおかしなおもちゃのような小船をクイン・メリー号かのようにひろうするのをきいて、かたはらいたかった。ぼくは、ほんとうの船というものはどんなものか、かれにきかしてやったが、かれはおろかすぎる。エとルとは、いうまでもなく、ぼくにかせいしなかった。思うに、ルのような子どもには、船のあぶないことがわからないのだろうし、エは、この船の連中とおなじに、カにとりいっているんだ。カのことを、みんな王とよぶ。ぼくは共和党だといったら、カは、それはなんだ、とたずねるしまつだ。王がいなくて、国民が平等によりあってできる国を知らないとは!カは、まるで何も知らないようだ。いうまでもなく、ぼくは、一番悪い船室にいれられている。まったく牢屋だ。ルーシィはひとりで、甲板上にまる一へや与えられている。ほかとくらべて、とびきりのへやだ。カは、女の子だからだという。こういう種類のことは、女の子をかえってだめにしてしまうことだというアルバータ(母親のことです)の意見を教えこもうとしたが、カがおろかすぎるので、むだ。それでも、この上あんな穴にいると、ぼくが病気になることが、カにはわかるかもしれない。エは、カがルにへやをゆずって、ぼくたちといっしょになったのだから、へやのことでぐずぐずいってはいけないという。カがいっしょなので、なおさらこんで、ふゆかいなのが、わからないのか。それに、ネズミのようなやつがいて、だれにでもすごくなまいきなことをいうのを、書きおとすところだった。ほかの者たちはそんなやつがすきだから、がまんできようが、やつがぼくをためしてみようものなら、さっそく、やつのしっぽをねじってやるつもり。食物も、またひどいものだ」。こういう性格のユースチスが、この船旅によって何を体験し、どのように変わっていくか、どうぞお楽しみに。
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