富山鹿島町教会

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「ナルニア国物語」について 第48回

7.「さいごの戦い」(1)

 牧師 藤掛順一


 ナルニアの最期を語るこの最終巻は、ナルニアを貫いて流れる「大川」のはるか上流、西方の荒れ野との境にある「大釜池」のほとりから始まります。そこにヨコシマという名のサルと、トマドイというロバが住んでいました。二人は友達とは名ばかりで、トマドイはヨコシマに召使のようにこき使われていました。口下手で、自分はあまり利口ではないと自覚していたトマドイは、何事もヨコシマの言うがままでした。ある日、ヨコシマが、流れてくるライオンの毛皮を見つけたことから話が始まります。見つけたのはヨコシマですが、冷たい池に入ってそれを取ってこさせられたのはトマドイでした。ヨコシマはその毛皮をトマドイにかぶせ、アスランのふりをさせようとします。そうすれば、みんながおれたちに従うようになる、というのです。そんなことはとんでもない悪いことだと言うトマドイにヨコシマが、「あのひとは、とても喜ぶと思うぜ。きっとあのひとが、わざわざライオンの皮をおれたちにおくりつけたのさ。おれたちが、いろんなことをきちんとさせるようにさ。とにかく、あのひとは、出てきやしないよ。当節はあらわれないんだ」と言ったとたん、頭上で大かみなりがとどろき、地震で地面が揺れました。アスランからの警告だと言うトマドイに、ヨコシマは言います。「いやちがう。ほかの意味のおつげなんだ。おれはちょうど、おまえがいうようなほんもののアスランがいて、これをやれというつもりなら、きっとおれたちに、かみなりと地震をみせてくれるぞと、いおうとしてたところだった。そして口のさきまで出かかっていたんだが、ことばに出していうまえに、あのおつげがあったんだ」。こうしてトマドイは言いくるめられ、ヨコシマの指図通りにアスランのふりをすることになります。偽のアスランの登場です。そこから、ナルニアの最期の物語が始まります。「『おっしゃってください。そのことはいつ起こるのですか。また、あなたが来られて世の終わるときには、どんな徴が有るのですか.』イエスはお答えになった。『人に惑わされないように気をつけなさい。わたしの名を名乗る者が大勢現れ、『わたしがメシアだ』と言って、多くの人を惑わすだろう』」(マタイによる福音書第24章3〜5節)。偽キリストの登場こそ、世の終わりの徴なのです。
 「アスランは出てきやしない。当節は現れない」、この言葉ほど、ヨコシマの思いを端的に表しているものはありません。つまり、アスラン(神)などこの世にいないということです。「神を知らぬ者は心に言う。『神などない』と。人々は腐敗している。忌むべき行いをする。善を行う者はいない」(詩編第14編1節)。神への畏れを失った心から、ナルニアの滅亡をもたらす悪が生じるのです。
 それからしばらくして、「アスラン現る」という知らせがナルニアに広まり始めました。ナルニアの最後の王となるチリアンと、その親友である一角獣の「たから石」は、その知らせを大いなる喜びをもって聞きました。しかしセントール(腰から上は人間、下は馬というギリシャ神話のケンタウロス。ナルニアでは勇猛、荘厳にして賢い存在として登場)の「星うらべ」は、自分が星の動きから読み取ったことによれば、それは真っ赤な嘘だと言います。
「うそだと!」王ははげしくいいました。「ナルニアの、いやあらゆる世界のいかなる生きものが、このような事がらにうそをつく気がいたそうか?」こういって王は、みずから知らないうちに、刀のつかに手をかけていました。「それはぞんじません、陛下」とセントール。「ただわたくしのぞんじますことは、地上にはうそつきがいるということでございます。星々のあいだに、うそいつわりはありません。」「星々の知らせるところがちがったものであっても、はたしてアスランはお見えにならないでしょうか。」とたから石がいいました。「アスランは、星々のどれいではなくて、その作り手です。むかしからの物語にも、アスランは、主人もちのライオンにあらずというではありませんか。」「よくいった。よくぞ申したな。たから石よ。」と王が声をあげました。「それそれ、そのことばよ。主人もちにあらずとな。かずかずの物語に出てくるぞ。」
 ここに、この後何度も繰り返される鍵となる言葉、「主人もちのライオンにあらず」が出てきます。原文ではnot a tame lionです。tameというのは、「飼いならされた、人間の言うことをきく」という意味です。アスランは、人間(ナルニア人たち)の言いなりになる召使のような存在ではなく、自由な主人であられる、ということです。第1巻「ライオンと魔女」の終わりの方で、ビーバー夫妻がピーターたちにそのように語っていました。そのことが、最終巻「さいごの戦い」の主要なテーマになっているのです。 
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