富山鹿島町教会

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「ナルニア国物語」について 第51回

7.「さいごの戦い」(4)

 牧師 藤掛順一


 ヨコシマとナルニア人たちのやりとりを聞いていたチリアン王はついにがまんがならず、叫び始めました。自分の民を犠牲として捧げさせるタシの神と、自分を犠牲にしてナルニアを助けたアスランとがどうして同じものであり得るかと問い糾そうとしたのです。しかしそれを言う前に王はカロールメンの兵士に殴り倒されてしまい、声の届かない遠くの木に縛りつけられてしまいました。
 夜になると、遠くのうまやの前にたき火がたかれました。多くのナルニア人たちがそれを囲んでいます。ヨコシマがうまやの入り口に向かっておじぎをし、戸をあけると、中から黄色くて毛のもしゃもしゃしたものがよたよたと出てきました。ナルニア人たちは「アスラン!アスラン!アスラン!どうか話してください。わたしたちをなぐさめてください。これ以上おこらないでください」と叫びましたが、そのものは何も言わず、じきにまたうまやの中によたり込んでしまいました。チリアンは、それがアスランであるとはとても思えませんでした。そして先ほどの、アスランとタシは同じものだという話と考え合わせ、アスランがナルニアに来たという話の全体が真っ赤な嘘であることを見破ったのです。
 うまやの前の集会も終わり、チリアンは闇の中で、木に縛り付けられたまま夜を過ごさなければなりませんでした。彼はナルニアの歴史を思い起していました。ナルニアが重大な危機に陥った時、アスランと、別の世界から来た子どもたちが現れて、ナルニアを救ってくれたことをです。王はアスランに、「どうか今、ここにきて、わたしたちをお助けください」と呼ばわりました。それから、「もしご自身でいらっしゃらなければ、せめて、この世界をこえたかなたから、救い手をお送りください。さもなければ、わたしに救い手たちをよばせてください。わたしの声を、この世界をこえたかなたへ運ばせてください」とささやくように言うと、我知らずに大声で、「子どもたちよ!子どもたちよ!ナルニアの友らよ!早く、ここへおいでください。あらゆる世界をこえて、わたしはよびかけます。こちらは、ナルニアの王、ケア・パラベルの城主、離れ島諸島の皇帝、チリアンです!」と叫びました。すると王は夢へと引き入れられていきました。七人の人たちがテーブルを囲んで食事を終えたばかりの様子が見えました。その内の二人はおじいさんとおばあさん、後は若者たちです。彼らはチリアンの姿を見て驚きました。その内の一人が、「もしあなたが、幽霊でもなく、夢でもないならば、ものをいえ。あなたのようすには、ナルニア人のふうがあるな。ここにいるわれらは、ナルニアの七人の友だ」と言いました。チリアンは名乗って彼らに助けを求めようとしましたが声が出ません。その人はさらに言いました。「もしあなたがナルニアからきたのなら、アスランのみ名において、わたしに語れと命する。かくいうわたしは、一の王ピーターだ」。しかしチリアンは一言も言うことができないまま、幻は消えてしまい、気がつくと、あいかわらず木に縛りつけられたまま、朝になろうとしていました。
 すると突然チリアンの前に、男の子と女の子が現れました。それはあの夢に出て来た七人の中の、一番年若い二人でした。彼らは早速チリアンを縛っている縄を切り、解放しました。女の子は、彼が一週間前に彼らの食事の席に現れたと言います。チリアンがそれはまだ十分ほど前のことだと言うと、男の子が、「いつものとおり、また時間がごちゃごちゃになったんだよ、ポール」と言いました。そう、この二人は「銀のいす」に出て来たユースチス・スクラブとジル・ポールでした。
 彼らはチリアンの案内で、ある塔に向かいました。無法者から国を守るために建てられた砦のような塔です。そこへ向かう間に、ユースチスとジルがナルニアへ来た経緯が語られました。「ナルニアの友」らが集まって食事をしていたところに、チリアンが幻として現れたのを見た彼らは、ナルニアに危機が訪れていることを感じ、ユースチスとジルをどうにかしてナルニアへ送ろうと思いました。ピーターら四人はもうナルニアに来ることはできないとアスランに言われていたので、行くことができるのはこの二人だけだったのです。しかしそのためには、「魔術師のおい」に出てきたあの「魔法の指輪」が必要です。ピーターとエドマンドがそれを掘り出し、それを彼らに渡すために、「ナルニアの友」みんながある駅で落ち合うことになっていました。ユースチスとジルの乗った列車がその駅に着こうとした時、突然おそろしい音がして体が揺れたと思ったら、彼らはもうナルニアに来ていたのです。指輪は使わずじまいでした。この時何が起こったのかは後で明らかになります。ルイスは、このようなストーリーによって、「ナルニアの七人の友」がある所で落ち合うという設定を作りたかったのです。しかしそこには少し無理があります。彼らが自分たちからナルニアへ行こうとし(あるいはユースチスたちを送ろうとし)、そのために魔法の指輪を使おうとすることは、第六巻までに語られてきたことからすると、適切な行動ではありません。ナルニアは本来、自分たちの思いで行ける場所ではないのです。ナルニアの危機の時には、アスランが彼らを呼んで、あるいは遣わしてくれるのであって、彼らはそれを信じて待つべきなのです。助けが必要なようだから自分たちの工夫によってナルニアへ行こうとすることは、アスランを信頼していない不信仰の現れだとも言えるのです。そのような無理をしても彼ら七人をある場所に集めようとするルイスの意図は何か。また、彼らは何故七人なのか。その答えは後に残しておきましょう。
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