富山鹿島町教会

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「ナルニア国物語」について 第18回

3.「朝びらき丸東の海へ」(5)

 牧師 藤掛順一


 竜の島を船出して、朝びらき丸はさらに東へと航海を続けました。行方不明の七人の貴族の内、まだ消息のつかめていないのは五人です。その内の一人が見つかったのは「死水島(しにみずじま)」でした。それは後からつけられた名で、最初この島に到着した時は誰もそんな島だとは思っていませんでした。
 この島のある池のほとりで、カスピアンとエドマンドとルーシィ、ユースチスとリーピチープは、ナルニアの貴族の鎧とかぶと、そして剣を見つけました。そしてその池の中には、頭の上に両腕をのばした人間の姿の金の像が沈んでいました。実はこの池の水は、何でも純金にしてしまう水だったのです。木の枝を入れて取りだせばそれは純金の枝になっています。だからあの像も、ナルニア貴族の一人だったのです。この島に着いた彼はこの池に飛び込み、そのまま金の像になってしまったのです。
 そのことに気づいたとたん、カスピアンは「この島をおさめる王は、たちまちこの世のいかなる王よりも金持になるだろう。わたしはこの島を永久にナルニアのものと宣言する。島の名を金水島ということとする。そしてみなの者に、ぜったい秘密にせよと申しわたす。だれにもこれを知られてはならない。ドリニアン(朝びらき丸の船長です)にさえもだ-秘密をもらせば、罪は死にあたいするものと心得よ」と言い出します。エドマンドがそれに食ってかかり「あんたは、だれにむかっていってるんだ。ぼくは、あんたの家来じゃない。そうおっしゃっても、お門ちがいでしょう。ぼくは、ナルニアのむかしの四人の王たちのひとりだ。あんたがたは全部、わが兄一の王の下にしがたうべきもの」。そして二人は決闘になるところでした。
 そこに、アスランが現れました。アスランは、彼らの方を顧みることなく、そこを通り過ぎていきました。アスランの姿が消えた時、彼らははっと我に帰りました。「わたしたちは、なんの話をしていたのかな?」とカスピアン。「よほどとんまなことをしていたんじゃないか?」。そして、この島を「死水島」と名付けることになったのです。
 全てのものを金に変えてしまう水、それはすばらしい富と豊かさを生みだす水であるように思えます。然し実はそれは、人の心を誤らせ、争いを起こさせる、死をもたらす水なのです。私たち日本人は、この水に心狂わされてしまっているのではないでしょうか。それが、死をもたらす水であることを私たちに気づかせ、正気に戻してくれるのは、アスラン、即ち主イエス・キリストなのです。
 次に着いた島には、人の手によってよく手入れされた芝生の庭と並木、そしてその先に立派な屋敷がありました。しかし人の姿はどこにも見えません。そこには、どしんどしんと大きな足音をたてて歩く、目に見えない人々がいたのです。彼らは朝びらき丸の一行を半ば脅迫しつつ、ルーシィに頼みがあると言います。それはこういう頼みでした。
 「我々はこの島に住む大魔法使いの下働きをしていた。ところが我々が言うことをきかなかったので、魔法使いは魔法で我々を二目と見られぬみにくい姿に変えてしまった。そこで我々の中の女の子が、魔法使いの寝ている隙に魔法の本を見て、自分たちの姿を見えなくするまじないをとなえたために、我々は見えなくなった。ところが、見えなくなってみるとこれがかえって不便なので、もう一度見える姿に戻りたいと思う。そのために、女の子がこの島に来るのを待っていた。その子に、魔法使いの屋敷の二階に行って魔法の本を見て、我々が見えるようになるまじないを唱えてもらいたい」。魔法のまじないは女の子が唱えなければ効き目がないのです。ルーシィは彼らの願いを聞いてあげることにしました。
 翌朝、ルーシィは一人で屋敷の階段をあがり、声に教えられた左側の一番奥の部屋へとおそるおそる向かいました。魔法使いはどこにいるかわかりません。というのは、彼らの姿が見えなくなると同時に、魔法使いの姿も見えなくなってしまったからです。問題の部屋にはとても大きな魔法の本が机の上に置いてありました。ルーシィはそれを開き、目的のまじないを捜すために読んでいきました。すると、このようなまじないが目にとまりました。「よろずの人にたちまさりてこよなく美しくする、ききめうたがいなきまじない」。そしてそこにあるさし絵をながめていると、そこには、ルーシィ自身がそのまじないをとなえてこよなく美しくなり、その美しさを求めてナルニアとその周囲の国々が戦って荒れ果ててしまうこと、イギリスに帰った美しいルーシィに、姉のスーザンがやきもちをやいているところなどが見えてきました。ルーシィはこのまじないを唱えたくて仕方がありませんでした。するとそこに、今度はアスランの顔が現れました。アスランは恐ろしい顔でルーシィに向かってうなっていました。ルーシィはあわててページをめくりました。 次に、「友だちがじぶんのことをどう思っているかを知るまじない」がありました。ルーシィはそのまじないを唱えてしまいました。すると、やはりそのページのさし絵に、ルーシィの二人の学校友だちの姿が現れました。その内の一人はルーシィの親しい友だち、もう一人は仲の悪い意地悪な子でした。その二人が話をしている声が聞こえてきました。親しい友だちが、意地悪な子に、ルーシィの悪口を言っていたのです。ルーシィは腹を立て、また悲しくなってページをめくりました。
 ついに、「見えないものを見えるようにするまじない」がありました。ルーシィがそれを唱えると、後ろに気配がしました。ふりかえるとそこにはアスランが立っていました。
「ああ、アスラン。やっと来てくださったのですね。」とルーシィがいいました。「わたしは、たえずここにいたのだよ。だがいま、あなたがわたしを見えるようにしたのだ。」「アスラン!」とルーシィは、すこしばかりせめるような調子でいいました。「わたしをからかわないでくださいな。わたしみたいなものがやったことで、あなたが見えるようになっただなんて!」「そうだよ。わたしだって、わたしのさだめたきまりにしたがうものだとは、思わないか?」それからしばらくことばを切って、やがてこうアスランがいいはじめました。「わが子よ、あなたは、立ちぎきをしてしまったね。」「たちぎき、ですって?」「それ、ふたりの学校友だちが、あなたのうわさをしているところを、きいてしまったね。」「ああ、あれですか。あれは、たちぎきだとは思いませんわ。アスラン。あれは、魔法じゃありませんか?」「魔法によって、ほかの人のことをさぐることも、ほかのやりかたでさぐることと同じだよ。それに、あなたは、友だちの心をよみちがえている。あの人はよわい人だ。だがあなたのことがすきなのだよ。あの人は、もうひとりの年上の子のことをおそれて、心にもないことをいったのだ。」「でも、あの人のいったことは、忘れられないと思います。」「そうだ。忘れられまい。」「ああ、どうしましょう。わたしは、何もかもだめにしてしまったんでしょうか。もしこんなことさえなければ、あの人と友だちでいけたと思いますか?ああ、ほんとうにいい友だちだったのに−一生つづく友だと思っていたのに-もうだめになっちゃったわ。」
魔法によってであれ、何によってであれ、人の愛を確かめようとすることによって、その愛そのものを失ってしまうことをルーシィは学んだのです。
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