富山鹿島町教会

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「ナルニア国物語」について 第20回

3.「朝びらき丸東の海へ」(7)

 牧師 藤掛順一


 次に到着した島には、宴会のごちそうを並べた長いテーブルがあり、そこに三人の男が眠り続けていました。その三人は、行方不明の貴族の残りの三人でした。そこで夜を明かしたカスピアン、エドマンド、ルーシィ、ユースチス、リーピチープのところに、明け方、一人の美しい娘が現れ、そのテーブルと眠っている三人のことを話してくれました。このテーブルは、「アスランのテーブル」と呼ばれており、アスランの命令で、旅人のために用意されているものでした。三人の貴族たちは、この島までやってきて、ここに留まるか、さらに先へ進むか、ナルニアへ引き返すかで言い争いになり、一人がテーブルの上に置いてあった石のナイフに手をかけたとたん、魔法の力で三人とも覚めない眠りについてしまったのです。
「この石のナイフは、何なのです?」とユースチスがたずねました。「どなたも、これをご存じないのですか?」とおとめがいいました。「わたし、たぶん、」とルーシィがいいました。「たぶん、そのようなものを前に見たように思います。それは、ずっとむかし、白い魔女が石舞台でアスランを殺した時に使ったものに似ていますね。」「同じものなのです」とおとめがいいました。「この世のつづくかぎり、あのことを記念して、とっておくように、ここに持ってこられたのです。」
そこに、この娘の父親が現れ、眠っている三人の魔法を解いて目覚めさせる方法を教えてくれました。
「この魔法を破るには、あなた方は、この世のはてに、あるいはできるかぎり、そのはての近くまで、船を進めなければならぬ。そしてそこに、あなた方のうちの、すくなくともひとりを残して、ここへ帰ってこなければならぬ」「すると、そのひとりは、どうなりましょうか?」とリーピチープがたずねました。「その者は、東のいやはてにまで進まなければならず、二度とこの世界へ立ちもどることはかなわぬ。」「それこそ、わたしのおくぞこからののぞみですぞ」とリーピチープ。
こうして、行方不明の貴族の最後の三人を発見した彼らは、その眠りを覚ますためにさらに東へ、この世の果てに向かって船出していきました。
 その島は「この世の果てのはじまり」に位置する島でした。その先の航海にも、いろいろと不思議なことがあるのですが、それは全て省略します。「朝びらき丸」はついに、これ以上は水深が浅くて進めないところまで来ました。そこでボートを降ろし、この世の果てに向かって二度と戻らぬ旅を続けるリーピチープと、エドマンド、ルーシィ、ユースチスが、アスランの示しによってそれに乗り込みます。ボートも進めないところまで来ると、リーピチープは自分の皮ばり舟に乗って一人進み、ついにその姿は見えなくなりました。それ以来、リーピチープの姿を見た者はありませんでした。しかしこのリーピチープは、最終巻「さいごの戦い」において、もう一度登場します。
 三人の子供たちはボートを降り、浅い海を歩いてるうちに、陸地に着きました。緑の草原を歩いていくと、一匹の子羊に会いました。この子羊との会話が、ナルニア国物語全巻の意味を知る上でとても大事なものです。
「子ヒツジさん、教えてくださいな。」とルーシィがたずねました。「ここは、アスランの国へいく道ですか?」「ここは、あなたがたの道ではありません。」と子ヒツジがいいました。「あなたがたがアスランの国へいく入口は、あなたがたのあの世界からひらかれているんです。」「なんだって!」とエドマンド。「アスランの国へはいる道は、ぼくたちの世界からも通じているんですか?」「わたしの国へ来る道は、あらゆる世界から通じている」と子ヒツジはいいました。が、そういった時、雪のように白い色は、うす茶をおびた金色にかがやき、子ヒツジの大きさがにわかに変わって、アスランそのひととなって、三人を見おろすように背が高くなり、たてがみから光をまきちらしていました。「ああ、アスラン。」とルーシィ。「わたしたちの世界からあなたの国へいく方法を、わたしたちに教えてくださいませんか?」「いつでも教えてあげるとも。」アスランはいいました。「だが、そこにいたる道が、長いか短いかは、いえないが、一つの川をこしていくのだということだけは、いっておこう。しかし、そのことをおそれるな。なぜならわたしは、大いなる橋のつくり手だからなのだ。さあ、おいで。大空にその入口をひらいて、あなたがたの世界に送り帰してあげよう。」「でも、アスラン、」とルーシィがたのみました。「あちらへ帰るまえに、わたしたちがもう一度ナルニアへもどってこられるのはいつなのか、どうぞ教えてくださいませんか?おねがいです。ああ、すぐにやってこられるように、おねがいよ。」「いとしい者よ。」とアスランが、まことに静かにいいました。「あなたも、あなたのきょうだいも、ナルニアへたちもどることはないだろう。」「ああ、アスラン!」エドマンドとルーシィとが、いっしょにうちひしがれた声をあげました。「わが子たちよ。ふたりとも、年をとりすぎたのだ。」とアスランがいいました。「もはや、あなたがたのあの世界によくなじんで暮していかなければならないよ。」「かんじんなのは、ナルニアではありません。」とルーシィが、泣きじゃくって、「アスラン、あなたなのです。わたしたちは、あの世界であなたには会えませんもの。あなたに会えないで、どうして暮していかれましょう?」「それでも、あなたは、わたしに会うよ。むすめよ。」とアスラン。「あなたが?あなたが、あちらにもこられるのですか?」とエドマンド。「いるとも。」とアスラン。「ただし、あちらの世界では、わたしは、ほかの名前をもっている。あなたがたは、その名でわたしをわかるように、おぼえていかなければならない。そこにこそ、あなたがたがナルニアにつれてこられたほんとうのわけがあるのだ。ここですこしはわたしのことを知ってくれれば、あちらでは、もっとよくわかってくれるかもしれないからね。」
これが、「ナルニア国物語」の意図です。アスランは、私たちの世界では別の名前を持っている。それは「イエス・キリスト」という名です。そのイエス・キリストをもっとよくわかるように、彼らはナルニアに連れてこられた。それは、この物語を読む読者のことをも言っています。「ここで(この物語の中で)すこしはわたしのことを知ってくれれば、あちら(私たちの現実の生活)では、もっとよくわかってくれるかもしれないからね」。そういう願いをこめて、C・S・ルイスはこの物語を書いたのです。
    
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