富山鹿島町教会

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「ナルニア国物語」について 第31回

5.「馬と少年」(3)

 牧師 藤掛順一


 シャスタがナルニア人たちに連れ去られた後、アラビスたちはどうしていたのでしょうか。あの直後、アラビスの幼なじみのラサラリーンという女性の輿が通りかかり、アラビスは彼女に見つけられてしまったのでした。そこでアラビスは彼女の輿にかくまってもらい、馬たちも彼女の屋敷に連れて行ってくれるように頼みました。ラサラリーンの話では、アラビスの父もこのタシバーンに来ており、アラビスの行方を捜しているとのことでした。アラビスはラサラリーンに全てを打ち明け、タシバーンから馬たちと一緒に逃げ出す手助けを頼みました。ラサラリーンが言うには、今晩は宮殿で宴会があるから無理だが、翌日の晩、宮殿の北側の庭の門から抜け出すことはできるだろうということでした。馬たちは彼女の馬丁に連れて行かせることになりました。
 翌日の晩、侍女に変装したアラビスを連れて、ラサラリーンはティスロックの宮殿に行きました。目指す庭の門を捜しながら人気のない昔の宮殿の中を歩いていると、行く手に光が見えました。二人の男が、燭台を持って後ずさりして来ます。それは、ティスロック王の前でだけすることです。二人は開いている部屋に逃げ込み、ソファの後ろに隠れました。ところが王たちはよりにもよってその部屋に入って来たのです。それは、ティスロック王と、ラバダシ王子と、アラビスの婚約者である、今や総理大臣になったアホーシタでした。彼らは普段人のいないこの古い宮殿の一部屋で、密談をしに来たのです。アラビスたちはそれをソファの後ろで聞くことになったのです。
 ラバダシ王子は、昨日の晩、スーザン女王を乗せたナルニアの船が、彼らをだまして船出してしまたことでかんかんに腹を立てていました。ラバダシは父ティスロックに、カロールメンの軍勢によってナルニアを征服してくれるように願いました。しかしティスロックは慎重でした。ナルニアはティスロックが王になった年まで、白い魔女によって雪と氷に閉ざされていたのが、今ではピーターたちによってよく治められている、そこにはよほどの魔力が働いているに違いない、そこに攻め込むことは得策ではないと彼は考えているのでした。するとラバダシは父に一つの提案をします。自分が手勢二百騎を引き連れて砂漠を渡り、まずアーケン国のアンバード城を奇襲して占領し、さらにナルニアに攻め込んでケア・パラベルの城に乗り込む。今からすぐに行動を起こせば、スーザン女王たちの乗った船がナルニアに着く前に作戦を完了できるだろう。もしもナルニア攻略に失敗したとしても、アンバード城は必ずこちらの手に落ちるはず。そうすればナルニアの喉元を抑えたようなもの。そしてもし自分が捕えられたりしたとしても、若者が恋心の余り、王の許しも得ずに暴走したと説明すればよい…。
 アホーシタも、忠義ぶりながら、このたくらみをけしかけるようなことを王に言いました。王はついに、ラバダシの提案を受け入れ、ただし失敗しても助けにも行かないし援助はしない、自分は全く知らなかったことにする、と言いました。ラバダシは直ちに部屋を出て行きました。
 王たちがいなくなると、アラビスは早速宮殿の門から抜け出し、ラサラリーンの馬丁からブレーとフィンを受け取ると、約束の「昔の王たちの墓」へ行きました。そこでシャスタと再会したのです。
 アラビスがもたらした情報は一刻の猶予もできないものでした。直ちにこのことを、アーケン国に伝えなければなりません。彼らはその晩すぐに出発しました。彼らはシャスタがナルニア人から聞いた道を行きました。それは、砂漠を真っすぐに北上するよりも遠回りにはなるが、途中で水のある谷間へ出ることができるのでよい、という道でした。翌日の夜になって、ようやく一行は谷間へ出ました。水のある所に来た彼らはようやく一息つき、眠ってしまいました。気が付くともう日が高く上がっていました。アンバード城へ急がなければなりません。ところが、ブレーは砂漠を越えたことで安心してしまい、何か食べてからでないと歩けないと言い出しました。すると、
「ど、どうか、お願いです。」とフィンがはずかしそうにいいました。「わたしも、ブレーと同じように、出かけるのはむりですわ。でも馬って、人間(拍車などをつけた)を乗せている場合には、こんな思いをしていてさえも、どしどしさきに進ませられるでしょう?だからやればできるものよ。つ、つまり わたしたちは自由なんですから、それ以上にできなくてはだめね。ナルニアにかけてもね。」
「じつは、フィン姫、」とブレーがばかに面目なさそうにいいました。「あなたよりは、ちょっとばかり野戦のことや強行軍のこと、それに馬がどんなにがまん強いかということも、知っているつもりですがね。」
 フィンは、大かたの育ちのよいめ馬のつねで、とても神経質ですぐにやりこめられてしまうおとなしいたちなので、ブレーのこのことばには、返事をしませんでした。ほんとうのところ、まったくフィンのいうとおりです。こんなときでも、もしブレーが背中にタルカーンを乗せていて、いけといわれたとしたら、四、五時間の強行軍には耐えられたでしょう。しかし、どれいの身だったり、人にしいられてする結果のいちばん悪いことは、させる人がいなくなると、じぶんからやろうという力をほとんどなくしてしまうことです。

 彼らが出発して四、五時間後、シャスタがある丘の上から南の砂漠の方を眺めると、地平線に砂煙があがっていました。それはまたたくまに近づいて来る、ラバダシの軍勢でした。彼らは走り出しました。果たして間に合うようにアンバード城に急を知らせることができるのでしょうか。
         
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