富山鹿島町教会

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「ナルニア国物語」について 第32回

5.「馬と少年」(4)

 牧師 藤掛順一


 ラバダシの軍勢が追い付いてきたのを見た彼らは、必死に走りました。すると後ろから、以前にも聞いたことのある、ライオンのうなり声が聞こえてきました。ブレーとフィンは今度こそ本当に全速力で走りはじめました。軍馬ブレーが全速を出せば、フィンは遅れてしまいます。ライオンは次第にフィンに追い付こうとしていました。シャスタは、「とまれ、もどるんだ。助けるんだ!」と叫び、ブレーから飛び降り、アラビスとフィンを助けにとってかえしました。シャスタがこのようなことをするのは生まれてはじめてで、なぜそうするのか、じぶんでもよくわかりませんでした。
 ライオンはアラビスめがけて右足をつき出し、その肩から背中を爪で引き裂きました。シャスタは何の武器も持たずにライオンの前に立ち、「しーっ!、かえれ!」と叫びました。するとライオンはくびすを返して去っていきました。
 彼らは「南の国境の仙人」のところに迎え入れられました。仙人はシャスタに、今すぐ休まずかけていけば、アーケン国のリューン王に知らせるのに間に合うと告げます。このことばをきくと、シャスタは気が遠くなりそうになりました。もうとてもその力はないと思ったからなのでした。そして、こんなことって、ずいぶん思いやりのない、不公平ないいようだと、心の中で思いなやみました。シャスタは、もし何か一ついいことをすれば、そのむくいとして、さらに一つ、もっと困難でもっといいことをするようになっているものだということを、まだ教わったことがなかったのです。しかしシャスタは走り出しました。
 アラビスは仙人の手当てを受けて元気になりました。彼女の背中には十本のかき傷がありましたが、それ以上ではありませんでした。翌朝彼女が馬たちのところへ行くと、ブレーはうちひしがれていました。
「わたしは、カロールメンに帰らなければなりません。」「なんですって?」とアラビス。「どれいにもどるつもり?」「ええ」とブレーはいいました。「わたしにはどれいがいちばん似合うんです。ナルニアの自由な馬たちに、どうしてこの顔が見せられましょう?フィンとあなたとシャスタがライオンにくわれようというのに、とるにたらないわが身をたすけようとして、みんなをおいて、大急ぎで逃げたこのわたしですよ。」「わたしたちみんなが、力いっぱい駆けたのよ。」とフィン。「シャスタはちがいます。」とブレーは鼻を鳴らしていいました。「少なくとも、シャスタは、正しい方向へ駆けたのです、とってかえしたんです。それがわたしには、いちばんはずかしいのです。じぶんを軍馬と呼び、かずかずの戦いの自慢をしていたこのわたしが、小さな人間の男の子に―刀をもったことも、教えられたこともなく、見ならう手本もなかった子ども、ほんの坊やに負けたのですよ。」「そう、わたしも同じ気もちよ。」とアラビス。「シャスタはすばらしかったわ。わたしだって、あなたと同じくらいよくないのよ、ブレー。わたしは、あなたたちに会ってから、ずっと、あの子をあいてにしないで、ばかにしてたけど、今は、シャスタがわたしたちの中でいちばんりっぱになってしまったわ。でも、ここにいて、わたしたちがわるかったといった方が、カロールメンに帰るよりましと思うわ。」「あなたはそれでけっこうでしょう。」とブレー。「あなたは恥をかいたわけではないのですからね。けれど、わたしは何もかも失ってしまったのです。」
 「わが友よ、」と仙人がみんなの知らないうちにそばにきていいました。…「そなたはいい馬じゃな。そなたが失ったのは、うぬぼれだけじゃ。いやいや、わがいとこよ。そんなに耳をふせて、たてがみを振るでないぞ。そなたがさっきいっていたほど、しんからへりくだった気もちでおるなら、ものの道理をきくこともまなばねばならぬ。そなたは、あわれでおろかな馬たちの中にいたため、じぶんをえらい馬だと思うようになったが、それほどえらくはなかったのじゃ。もちろん、そなたは、ほかの馬たちよりも勇ましく利口ではあった。そうならざるをえなかっただけのことじゃ。だからといって、ナルニアでもひとかどのものだというわけにはまいらぬぞ。しかし、そなたが特別なものではないとさとるならば、あれこれと考えてみて、まあ全体としては、そなたはひとかどの馬になれよう。」
このくだりには、人生についての様々な教訓が込められていると言えるでしょう。
 一方シャスタは、示された道をひたすらに走りました。そして、林の中で狩りをしていたアーケン国のリューン王の一行と出会うことができました。リューン王はシャスタを見ると「コーリン!わが子よ!歩いてきたのか、そんなぼろを着て!どうしてまた−」と叫びました。シャスタが事情を話すと、王たちは直ちに城へと出発しました。シャスタにも馬が与えられましたが、彼はまたがることはできるけれども、手綱で馬をあやつることは知りませんでしたので、次第に一行から遅れてしまい、霧に巻かれて道もわからなくなってしまいました。ある別れ道に来た時、後ろから軍勢の来る音がしました。ラバダシです。シャスタは一方の道に入って身を隠しました。ラバダシの軍勢は反対の道をアンバード城へ向けて行きました。もうその道は行けません。シャスタは別の道を、どこへ行くのかもわからずに歩いていきました。  
 
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